ムーチー

旧暦12月1日は鬼餅(ムーチー)の日である。地域によっては、8日のところもある。 折目の料理とムーチーをつくり、仏壇に供える。またムーチーを包んだサンニンの葉で十字をつくり、ヒザイヨウナ(左撚綱)に差込み門に吊るす。 子ども達は、自分の歳の数だけ細縄でムーチーを壁などに吊るしてもらう。これをサギムーチーと称し、ひとつ食べるごとに数を確かめながら正月の来る日を待ちかねた。

ムーチーは、悪鬼(邪気)払いと子どもの健康を祈願するもので、とくに男の子の場合は、チカラムーチーといって一番下に大きな餅をいれた。 また、その年に生まれた家には、隣組、親戚、知友から五つづつ組み合わせたムーチーを届ける風習がある。 その逆もあり、年内に子どもの生まれた家では、生命に力を与えるとして、初ムーチーを親類や近所に配るところもある。

鬼餅(ムーチー)の起源説話として有名な、鬼が恐れた女陰の話は、伝承の過程で、いろいろな要素が混入してきたものと思われる。

むかし、ある村に乱暴者の男が住んでいた。村の家畜を盗んでは食べ、酒を飲んでは暴れてばかりいた。やがて村から追い出された男は、山の洞穴に住むようになり、いつしか人を食う鬼にすがたを変えていた。 そこで男の妹は、兄の好物であった餅(ムーチー)をこしらえて、洞穴にむかった。 妹は、見晴らしのよい崖の上に鬼の兄を誘い出し、餅をすすめた。ところが、その餅には鉄が込められていた。妹は普通の餅を食べ、鉄の餅を食べた鬼は、妹の歯のつよさにおそれをなした。

しばらくすると、妹が着物のすそをからげて足を広げてみせた。すると鬼が「その下の口はなんだ」と聞くと、妹は、こともなげに「上の口は餅を食う、下の口は鬼を食う」と答えた。驚いた鬼は、後ずさりして足を踏み外し、悲鳴をあげて崖下に転がり落ち、死んでしまったというお話。

お隣、宮城島では、餅を煮た後の汁は「鬼の足だよ」という意味の呪文を唱えながら門にこぼすという。国頭村宜名真では「鬼の足を焼く」と唱えてその汁をこぼす。 平安座のムーチーを食べた後のサンニンの葉を十字にヒザイヨウナに差込みして門に吊るすのも、鬼が餅を嫌うという伝説に基ずく鬼の侵入防止だろうと思う。

米で餅をつくるのは、戦後になってから、以前は小麦や唐黍(とうきび)に芋を混ぜてつくるムーチーが主流であった。

ムーチーにはいろいろあるが、トージンムーチー、ンナムジムーチー、いずれも平安座ならではのムーチーであるが、材料がなかなか手に入らないことや、面倒なことはしたくないこと等の理由により、懐かしい味が姿を消していく事は淋しいことである。

(文:下條義明)